メッセージ

実体情報学への誘い

ogata

実体情報学博士プログラム
プログラムコーディネーター
尾形 哲也
基幹理工学研究科
表現工学専攻 教授

深層学習の技術を核とする現在の人工知能技術は、画像・映像・音声などの認識と合成、多言語翻訳、ゲームやなどの多様な情報処理において、極めて優れた性能を発揮し社会的に大きなインパクトを与えています。しかしその応用の多くは、コンピュータの中に留まっているのが現状です。これらの技術を如何に現実の世界に応用し、我々の住む実社会に支障なく実装していくかが重要な課題となっています。

この問題に関連して、「サイバー・フィジカル」という用語がよく用いられます。その説明の多くは、”フィジカル空間の情報を可能な限りサイバー空間へ移行”し、両者の連続的な統合を目指しています。今後、確かに大枠では、その方向性は重要になると言えますが、同時に我々が存在する実世界には、簡単にはサイバー空間に移行できないもの、また移行してはいけないもの、があることを認識することも極めて重要なことです。むしろこの二つの世界の差異と境界を意識し、文脈に応じて適応的に設計する部分にこそ、今後重要となる概念や技術の可能性が潜んでいると考えます。

実際に、サイバーシステム(情報システム)とフィジカルシステム(機械システム)を、有機的かつ動的に融合することは容易ではありません。例えばそれぞれシステム技術の基盤となる数学に目を向けたときでも、AIなどの情報システムは離散的なデータを扱う確率統計、ロボットなどの機械システムは連続的な物理現象を扱う微積分、と異なります。学術分野としても、まだ両者は決して融合した関係にあるとは言えない状況だと思われます。

しかし今後は、AIによるロボットなどの実世界システムの進化、と、実世界のシステムを駆動するためのAIの更なる進化という、双方向の“共進化”が急速に進んでいくと思われます。この共進化の先に、フィジカル(実体)をもったサイバー(情報)システムという、革新が実現されるのではないでしょうか。そのためには、情報・通信系や機械系などの”異分野を結びつけることができる能力をもった人材”が必要不可欠です。

早稲田大学リーディング実体情報学博士プログラムでは、このような思想のもとに、理工系の中でも異なった専門を持つ学生達が、「工房」という一つの場所に集い、互いを知り、共に研鑽し、国際連携の経験を積み、新しい未来を共創できる場所として2013年に生まれました。そしてこれまでに、多様な分野で活躍する優れた人材を多数輩出してきました。本プログラムで育まれる”異領域を結びつける能力”は、単に技術の統合という側面だけでなく、倫理、法律、ビジネス、政策設計など、今後の社会実装の際に不可欠となる多様な人文社会系分野との連携にも重要となるでしょう。

是非、多くの学生に実体情報学博士プログラムに加わっていただき、一緒に世界に誇れる成果を発信していきたいと思っています。

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