メッセージ

実体情報学の世界へようこそ

実体情報学博士プログラム
プログラムコーディネーター
菅野 重樹
(創造理工学研究科 総合機械工学専攻 教授)

日本の「ものづくり」は世界に誇れる技術です。自動車、鉄道、生産設備などあらゆる実体をもつシステムである「もの」を創り上げる力があります。一方で、Google、Apple、KUKAといった世界を先導する企業は欧米から多く生まれています。この背景には、イノベーションを見出す先見力、幅広い分野の先端技術をインテグレーションする構想力、リーダーシップを発揮する突破力の3つの力を兼ね備えた人材が、日本の「ものづくり」の現場で必ずしも育っていないことが指摘できます。特に、先見力構想力は、情報・通信分野と機械システム分野を基盤として、新しい医療・福祉、製造、社会インフラ整備を展開するために必須の力であり、この分野の人材育成は、情報・通信と機械システムを支える研究教育者、企業人が取り組むべき最優先課題であると言えるでしょう。

ここで重要な視点が、いかに情報・通信と機械とを結び付けるかです。情報・通信と機械とは「ものづくり」の基盤技術です。そのために多くの大学や研究機関において、これまで情報・通信系と機械系との融合や交流が試みられてきました。しかし、両者を単に組み合わせただけでは、イノベーションやインテグレーションは生まれてきません。情報・通信系におけるプログラミングやネットワークなどの深い造詣に加えて機械系の設計感覚を体得すること、逆に機械系の設計をはじめとする深い知識・経験に加えて情報・通信系の方法論を体得すること、といった両者のセンスを一体化した新しい学問・研究分野を極めることが求められているのではないでしょうか。

例えば、手術支援システムを構築するためには、高精度なロボット技術とヒューマンインタフェース技術が必要ですが、そこにネットワークや高速データ処理の情報系方法論を導入できれば、医療系ビッグデータの管理や瞬間的な治療手技の提示が可能となり、新しい手術支援システムが実現できます。これこそが実体情報学です。

実体情報学の鍛錬は、基盤技術の修得の上で行うことに意義が あります。情報、通信、機械といった各分野の基盤技術を修得して 学部を卒業し、そのままその分野の大学院に進学すると、結果とし て当該分野のみの力の発展にしかなりません。それぞれの分野で 進学するのではなく、融合分野である実体情報学に進学すれば、 先見力構想力突破力の強い力が身に付くのです。この鍛錬の場 も重要です。個々人が独立して研究していたのでは、実体情報学 の新しい発想は生まれてきません。早稲田大学はそのために、皆 が集い、刺激を受け合う研鑽の場としての「工房」を用意しまし た。日本独自かつ世界に誇れる「ものづくり」を早稲田の「工房」か ら、実体情報学博士プログラムから発信しようではありませんか。

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